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兵庫の特産品だった炭酸水 ~ 戦前のウィルキンソンのラベル

 炭酸の入った飲み物、時々、無性に欲しくなりますよね。子供の頃、祖父がなにを思ったのか、炭酸水製造機(ソーダサイフォン)を買ってきたことがありました。今でも売ってますよね。要するに炭酸が入った小さなガスボンベと、密閉されたボトルがあって、無理やり水に炭酸を溶け込ませるわけです。工場でも同じ原理で炭酸飲料が造られる訳ですが、昔はどうしていたのでしょうか。

 昔、有馬温泉に地獄谷と呼ばれる場所があったそうです。そこでは洞窟の中から湯が湧き出ていたのですが、虫や鳥がその洞窟に入ると死んでしまうというので地獄水と呼ばれていたそうです。戦国時代、三田藩主だった山崎家盛(1567-1614)が、この地獄水を利用して温泉場を開設しようとしたが、たたりがあると地元住民が反対したという記録が残っています。

 1873年(明治6年)、この地獄水を地元町長が分析を兵庫県に依頼。その水が炭酸水であることが判明した。天然の炭酸水である。つまり、虫や鳥が洞窟に入ると死んだのは、二酸化炭素のせいだったのだ。

 1901年(明治34年)には、有馬鉱泉株式会社が設立され、天然の炭酸水の瓶詰めを販売しはじめた。一方、同じ兵庫県川西市の平野鉱泉には明治に入って建てられた宮内省御料工場があり、その払い下げを受けた明治屋が1884年(明治17年)が「三ツ矢平野水」を販売。さらに、1907年(明治40年)には帝国鉱泉株式会社が設立されて、「三ツ矢印 平野シャンペンサイダー」を販売開始した。これは後の「三ツ矢サイダー」となるものである。有馬鉱泉もこれに刺激を受けたのか、1908年(明治41年)には「有馬サイダー」を販売した。有馬鉱泉はその後、買収され1926年(大正14年)に姿を消した。(注1)

 さて、神戸に住んでいたイギリス人 クリフォード・ウィルキンソンが、1889年(明治2年)頃、現在の兵庫県西宮市塩瀬町生瀬付近で狩猟中見つけた天然の炭酸水をロンドンに送り調べさせたところ、良質のものであることが判った。そこで1890年(明治3年)から現在の兵庫県宝塚市紅葉谷に工場を開設、「仁王印ウォーター」として販売を開始した。1904年(明治37年)には、ザ クリフォード ウヰルキンソン タンサン ミネラル ウォーター有限会社(本社・香港)が設立され、「ウヰルキンソン タンサン」と名付けられた炭酸水が本格的に販売されるようになった。当初は外国人向けに販売されたようだ。

 この仁王の顔、これはクリフォード・ウィルキンソン 本人がモデルらしく、「胃腸を仁王の如く強くする」という意味があるそうです。

 今回のラベルには、炭酸水のほかにTONIC、LEMONDE、GINGER ALE、 そしてレモンがあります。ジンジャエールの生産が始まったのは、大正時代ですので、それ以降、戦前のものだと思われます。

 それにしても外国人向けが主だったせいでしょうか、レモン以外は全て英語表記になっています。

 おもしろいのは、わざわざ「Bottled by THE BRITISH COMPANY」(英国企業)と書いてあるところです。また、「BOTTLED AT THE VOLCANIC SPRING TAKARADZUKA」(火山泉 宝塚)とも書かれています。

 このように兵庫県の有馬、宝塚辺りでは、天然の炭酸水を利用した工場がいくつも操業し、戦前にはある意味、特産品だったわけです。神戸港に入港する船に積まれ、名声を誇った神戸ウォーターと同様に、兵庫産の清涼飲料水は人気があったのでしょう。

 ウヰルキンソン社は、第二次世界大戦中をくぐりぬけ、戦後やバャリース(現在 バヤリース)オレンジの販売などを行います。その後、1983年(昭和58年)に商標権、製造、販売もアサヒビールに移ります。そして、1990年(平成2年)にはウィルキンソンの工場が閉鎖され、長い歴史はピリオドを打ちました。(注2)

 ところで、上記のラベル。仁王様の顔がビミョーに違うのですよね。

 左の方が、なんとなく厳しいイギリス人風に見えるのですが、どうでしょう。

 右は、なんだかびっくりしたような顔で愛嬌があります。

 現代と違って、こういう程度のものは鷹揚だったのでしょうか。モデルになったというウィルキンソン氏はどういう顔が気に入っていたのでしょうね。

(注1)現在、販売されている「有馬サイダー」は、別会社によるもの。

(注2)現在販売されている「ウィルキンソン」ブランドの製品は、アサヒビールで製造販売されている。

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