経営の三権分立
昔、松下系の会社で勤めていた時に、「松下幸之助」の語録bookなどを半ば強制的に読まされた。その時は、「へーん、そんなもんかいねえ」と思ったところが多かったのだが、今をして思えば「なるほどー」という点がある。
最も、なるほどと思っているのは、経営に関する部分で、事業部制の導入のところだ。
企業経営においては、営業(販売)、製造、そして、総務の三部門がそれぞれに分権し、調整しあうとことが大切だという点だ。
営業は、売上至上主義に走り勝ちで、「ライバルよりも一円でも安ければ、売ってきてやる」ということになりやすい。
製造は、品質至上主義に走り勝ちで、「なにより良い物を作るのが一番だ」ということになりやすい。
売上至上主義になると、往々にして利益確保を忘れがちになり、一歩間違うと「安かろう、悪かろう」でも構わないという方向に走り出す。
品質至上主義になると、これまたコスト意識が薄くなり、いわゆる「良い製品だが、商品にはならない」という事態が発生する。
そこで、これらを調整する役割が、総務だ。松下では、 経営管理と呼称されるのも、それなりの意味がある。
しばしば対立しがちな、営業と製造を調整し、企業として適切な利益確保と品質確保のバランスをとる役割を担っているのである。
さて、このバランスが崩れると、どうなるのか。 実は、私は、今回のJR西日本の事故は、このバランスが崩れた典型的な事例ではないかと思っている。
「阪急と競争するために、運賃は上げずに、速度を上げろ。そうすれば売上を上げることが出来る」という営業の論理。さらには、「他のJRに業績で差をつけられては、経営陣の姿勢を疑われる」と総務=経営管理までが、利益至上主義に走り出した時、製造=運行の部門の発言権が異常に小さくなってしまったのではないか。
個人の責任の追求も重要であるが、こうした経営システムも問題を克服できるかどうか。そこが、JR西日本に突きつけられた課題ではないのか。 しかし、同時に、多くの組織にとっても他山の石であるはずだ。