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中小企業から見た企業間インターネット取引の課題

本稿は、2002年1月25日の関経連「オープンビジネスネットワーク研究委員会」における講演要旨である。

『中小企業から見た企業間インターネット取引の課題』

ポ イ ン ト

(1)東京・大田区と東大阪は優良中小製造業の集積地域としてよく比較される。関東派は、大田区は高度技術指向であり、東大阪は未熟であると言う。一方、関西派はこの10年間で企業の減少が1割程度と大田区の3割に比べ少なく、技術力は大田区ほどではないが、何でもこなす強みがあるという。

(2)中小企業のインターネット活用策として共同受注を行おうとする動きがあるが、ネットを使うかどうかに係らず共同受注は難しい。そもそも新規取引を行うに際し最も時間やコストのかかるのは信用調査であるが、この部分をネットに置きかえることは困難である。

■中小企業の強みが弱みに

 関西は、他地域に比べ経済の落ち込みが激しく非常に厳しい状態にある。大企業は中国など海外へ生産拠点をシフトするとともに、IT化推進の掛け声の中で発注先の選別を進めている。インターネットと接続していない下請け企業との取引は今後やめると明言している大企業もある。

 東大阪辺りの中小企業を取り巻く環境をさらに詳しく見ると、後継者難や大企業・中堅企業が工場を廃止した跡地が宅地化されることによる生産環境の悪化、不況が長期化する中での資金繰りの悪化などの課題が発生している。

 よく中小企業には多くの強みがあるといわれるが、今、その強みと思われていた部分が弱みとなってきている。すなわち、日本の製造業では、鋼材を売る会社は鋼材だけ、メッキをするところはメッキだけ、というように得意分野を強みとして分業化をはかってきた。その結果、自社だけでは完成品を作ることができなくなっている。実はこのことが、個々の企業における生産品目の転換や技術転換を非常に困難にしている。また、企業規模が小さいため、技術力はあるものの決定的に営業力が不足しているのも弱みである。営業力強化のため新規取引先開拓の営業に出れば機械を休止せざるを得ず生産力が落ちる。逆に営業に力を入れて仕事をとってきても機械を動かす人間がいないという悪循環に陥っている。

■大田区と東大阪の中小製造業の違い

 関西の東大阪と関東の東京・大田区は共にわが国の優良中小企業の集積地としてよく比較されるが、その評価は研究者の間でも分かれている。関東派は、大田区は高度技術指向であり東大阪は技術が未熟である、従って都市型産業集積とは大田区のことをいうのであって東大阪は都市型産業集積ではない、と言う。一方関西派の言い分は次のようなものである。この10年間で大田区は3割程度企業が減っているが、東大阪は1割程度しか減っていない。技術は大田区ほど高くはないが、何でもこなすという強みがある。

 関東と関西の技術水準の違いは、関東は重電や輸送機器関係を中心に発展してきたのに対して大阪は弱電中心であったという点にあり、このことが両者の間で技術水準の較差を生ぜしめているという説がある。例えば、弱電分野であるラジオ製造は、仮に製品が不良でもそれで人が死ぬことはない。しかし輸送機器分野である自動車はブレーキが不良であれば人が死ぬ。この違いを前提に戦後30年〜40年の間でそれぞれの地域が進化を遂げているのであるから、当然、両者の間で求められる技術水準は異なってくるのだというものである。

 また、関西の企業は過去の受注に関する図面を保存していないところが多いという話も聞く。一方関東の企業では図面管理がきちんと出来ており、顧客(発注企業)が以前の注文と同じ物を作ってほしいと依頼すると、過去の図面を取り出してすぐに作ってくれると言われる。このような顧客に対する対応の違いが、結果として受注機会の差となって表れることを関西の企業も学ぶべきである。

 用途地域規制の範囲も影響していると考えられる。大田区は工業専用地域の割合が14.8%と東大阪の7.6%(大阪中小企業情報センター1996年資料より)に比べて高い。つまり、東大阪は住工混在地域が多く、大田区より環境面で良くないことも、不利な点と言える。

 いずれの地域でも中小製造業の廃業が相次いでいるのは、戦後の日本経済の発展過程において必然的に起きている現象と考えられる。わが国の中小製造業の多くは昭和30年代から40年代の高度成長期時代に起業した。当時は20歳代〜30歳代の人が退職金代わりに機械を一台譲り受けガレージ工場で起業するというようなことも行われた。それらの人達が高度成長期を経て今ちょうど定年、或いはそれ以上の年代に入り、子供に継がせるほどの規模でもないので、廃業しようと考えている。

■大企業のネット調達への取り組み

 多くの大企業では、関係会社との間の電子商取引は主としてリードタイムの短縮と情報の共有を目的にEDI(電子データ交換)を使って昔から行われていた。VANによる専用回線と専用端末を利用し、しかも大口の取引先限定であった。それが、今日ではインターネット技術により通信コストも劇的に低下したため、小口の取引先との間でもネット調達を進めやすくなったわけである。

 大企業のインターネット調達は部品調達コストの削減が目的であり、その対象は海外の企業である。国内の中小製造業はすでにぎりぎりまでコスト削減をしており、これ以上価格を下げることは非常に難しいからである。一般的には、大企業は量産品については海外を中心に新規調達を行い、国内では特殊品・少量多品種の製品の調達に集約化している。 中小企業のインターネット活用術

 このような状況下で、中小企業はインターネットをどう活用していけば良いのか。

■インターネットを使えば共同受注は実現するか

 大阪市のナニワ企業団地協同組合は、同市西成区・住之江区の造船所跡地に従業員30人未満の小規模事業所を意識的に集めた企業団地で、1980年に第一期、85年に第二期の造成を行った。現在、約270社が入居し、専任の事務局が調整役となりインターネットを活用した共同受注を活発に行っている。受注案件については、1社で対応する場合や組合企業が協力して複合加工することなど様々である。また組合内で処理できない場合は交流のある他の異業種団体を紹介するなどきめ細かなサービスが提供されている。この共同組合の強みは非常に狭い範囲に様々な加工技術を有する企業が集積し、あらゆる加工処理に対応できる点にある。単にホームページを開設しただけではなく、発注企業から見れば、一ヵ所に相談すればすべてが解決できるきめ細かなサービスが提供されている点がナニワ企業団地の強みとなっている。

 そもそも、インターネットを使うかどうかに係らず、共同受注の実現は非常に難しい。共同受注を行う場合、トラブルの責任を誰が取るのか、誰が弁償するのか、といった問題が起きるからであり、インターネットよりも受注企業間の信頼関係が非常に重要な要素となる。発注企業側から見ても、新規取引を行う際に最も手間やコストのかかるのは相手の信用調査であるが、この部分をネットに置き換えることは困難である。

■地域小規模企業グループ単位でネット交流をはかれ

 京都に京都機械金属青年連絡会(略称:機青連)というグループがある。連絡会のメンバーである京都の中小企業の若手がインターネットを使い出したのは約6年前であるが、当初は全国に中小企業のネットワークを拡大しようと考えた。しかし、現在ではもう一度京都を中心とする地域の中での連携を再構築する方向にある。それは何故か。一部の技術に特化している中小企業が様々な技術の組み合わせによって製品を仕上ようとすれば、物理的に全国レベルで部品のやり取りをすることは非効率である。結局ある程度の地域内で完成品を作れなければ意味がないという結論を得たからである。そこで新たに京都試作ネットという活動も始めている。すなわち、中小企業は、まず地域の中で相互の信頼関係を醸成していくことが先決であり、その上で地域の小規模な企業間ネットワーク組織が全国レベルで他の企業間ネットワーク組織との連携・交流をはかっていくというステップが必要である。

■中小企業の自社ホームページ開設は不可欠

 今日、中小企業が自社ホームページを開設することは不可欠である。何故なら、大企業のインターネット調達は資材調達部門だけではなく開発部、研究部門等様々な部署で行われており、これら多くの担当者が、インターネットの検索エンジンを使って日々新規取引先を探し、企業ホームページを見つけてeメールを送るというやり方に変わってきているからである。自社ホームページがないと電話帳に載ってないのと同じと考えねばならい。大企業は、今後の協力工場の選別の基準を、ホームページやインターネット接続環境があるかどうかという点に置いていることは間違いない。

 中小企業の中には、インターネットを営業活動と位置づけている企業がある。ある企業は、まず非常に簡単なHPを作り、これを各種団体のデータベースに登録し、さらに日本経済新聞の有料サービスを使って展示会があるとパンフレットに会社のアドレス、或いは広告を載せてもらうことによって、自社の営業活動を行っていることになる。さらに、関連会社とLANで結ぶことにより、データを自動送信し、人件費を削減した。見積依頼等もすべてインターネットを使って外注先に送信する。

■データ送信のインターネット活用が重要に

 インターネットを上手に使いこなしている中小企業経営者は、中小製造業にとってのインターネットの利用で非常に重要なのは、製造関係のデータのやり取りをすることであり、単にeメールを使いこなすだけではまったく意味がないと言う。一般に「元気な中小企業」といわれている企業の経営者は、今後は、メールやホームページよりも製造データのやり取りが重点になるだろうと主張する。中小企業が作る自社ホームページは、A4サイズで1〜2枚程度のコンテンツ、すなわち所在地、従業員数、加工法程度の紹介があれば十分なのである。

■団体のインターネット事業について

 中小企業を主たる会員に抱える商工会議所、商工会等の団体がインターネットのサイトを提供する方法としては、大きくは2種類ある。一つは、できるだけ多くの企業情報を集め検索エンジンを使ってその情報を提供する言わばネット上の企業名鑑をつくるケースである。もう一つは、会員企業の中で異業種交流グループなど小規模ネットワーク形成の仕組みを構築するケースである。前者と後者を比較すると、前者はできるだけ多くの企業を登録するほどメリットが大きい“電話帳”であるが、各々の中小企業が技術を特化させている現状では、これを使って複合加工の発注はできない。一方、後者は、相互の信頼関係構築が非常に難しいが、成功すれば、複合加工などの発注に対応するなど、グループ内での密度の濃い情報交流がはかれるメリットがある。

 一般に、ヘビ−ユーザでない人ほどITに過度の期待をかける。インターネット事業を運営する団体の事務局には、インターネットを使って何かしようとしているが、実は、これら団体では高齢化が進み自分はインターネットを使わない、すなわちヘビーユーザではない人が多い。そのため、インターネットに過度な期待をかけるため、多額の予算を使ってシステムを構築し、結局上手く稼動していないという例がかなり見受けられる。逆に、個人がボランティアで開設し、多くの登録企業を集めている加工屋さんサーチなども参考にしてほしい。

(本稿は、2002年1月25日の関経連「オープンビジネスネットワーク研究委員会」における講話の要旨である。)

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